KMバイオロジクス、小児用コロナワクチン治験
日経産業新聞
2023年11月23日
明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクス(熊本市)は新型コロナウイルス変異ウイルス向けのワクチンの開発を進めている。12月から小児向けの臨床試験(治験)を開始する。5000例の被験者登録を目指す。永里敏秋社長は「新型コロナワクチンを完成させ、できるだけ早く供給したい。インフルエンザワクチンとの混合化にも取り組む」と話した。
――ワクチン開発の現状はいかがですか。
「ウイルスの毒性をなくした成分で作る『不活化ワクチン』というタイプを開発している。オミクロン型の変異型『XBB.1.5』向けのワクチンの開発を進める」
「不活化ワクチンは、インフルエンザや小児の定期接種にも使われている技術で、副作用が比較的少ないとされるメリットがある。副作用への懸念から、ワクチン接種が遅れている子どもや乳幼児向けに開発する」
――冬から開始する治験はどういう内容ですか。
「対象は生後6カ月以上13歳未満の小児で、約5000例の接種登録を目指す。半数ずつプラセボ(偽薬)と治験薬を投与して比較する。10月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画を提出した。12月から被験者登録と接種を進める予定だ。主に南関東地域を中心に進める。KMバイオと、同じく明治グループのMeijiSeikaファルマと共同で実施する」
――かなり大規模な治験になるかと思います。
「国内でこれだけの人数を対象にしたワクチン開発の治験は、我が社としてだけでなく国内でも前例がないといえる。一社だけではできないため、関係機関の協力を仰いでいる」
「クリニックや医薬品開発業務受託機関(CRO)の連携先に加え、大学や病院、医師会の協力を得ながら進める。大病院での大規模接種などを検討しないと5000人は集まらない」
――治験を実施する上での課題は何ですか。
「5000人をどれくらい早く登録できるかということが重要になる。希望者はインフルエンザワクチンを無料で接種できるという仕組みにした。治験参加者のメリットとして、症例の組み入れに良い影響をもたらすことが期待される。またワクチンの有効性を確認するには、その時の感染状況にも左右される」
インフルエンザ混合ワクチンも視野に
――今後のスケジュールはどのようになっていますか。
「厚生労働省からは24年秋のワクチン接種に間に合わせてほしいという要請を受けている」
「今回の治験のデータとともに、これまで開発を進めてきた起源株ワクチンのデータもセットで提出する。承認されれば今後はこれらのデータをプラットフォームにして、変異ウイルスにも迅速に対応できるようになる見込みだ」
「インフルエンザと新型コロナの混合ワクチンも開発する。24年年明けから、人体に投与する前の非臨床試験のデータを取り始める」
――製造設備についてはどのようにお考えですか。
「もともと持っていた新型インフルエンザワクチンの製造設備に、新型コロナワクチンの製造能力を整備した。当面はこの施設で製造していく予定だ」
「さらに経済産業省のワクチンなどの生産体制整備事業に採択された。平時は小児向けの混合ワクチンなどを生産し、パンデミック発生時などにワクチン製造に切り替えられる『デュアルユース』の設備を作る」
早期供給の体制整備が課題
KMバイオロジクスは、化学及血清療法研究所(化血研、熊本市)からワクチンなどの事業を引き継ぎ、2018年に明治グループに統合される形で発足した。法令違反で業務停止命令を受けた化血研だが、ワクチン製造では実績があった。それを引き継いだ同社はMeijiSeikaファルマとともに、感染症やワクチン領域に強い。不活化ワクチンは比較的開発に時間がかかる難点があるが、副作用が相対的に少なく、小児への接種に適しているとされる。
国内企業が作る新型コロナワクチンは、第一三共のmRNAワクチンが8月に承認された。その後「XBB.1.5」に対応したワクチンを申請し、承認されれば年度内にも供給される見通しだ。同社は11月17日、ワクチンの140万回分の供給で厚生労働省と合意したと発表した。
国産のコロナワクチンの供給は後れを取り、5類移行後もまだ十分とはいえない状況だ。今後重要になるのは、新しい変異型が流行した際に早期にワクチンを供給できることや、将来の新興感染症発生時の迅速な対応だ。教訓を生かし、「次なるパンデミック」に備えた体制を整えられるかが課題となる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0750F0X01C23A1000000/