被害者の聞き取りをして 市議・あべ十全氏
その後、由利本荘市の市議会議員・あべ十全氏の案内で、だめーじサポートの会代表の畑山昌子氏と一緒に道川氏の家の周辺を回ってみた。
子吉川河口の海岸にそって、マリーナに一基、南側に7基、見上げるように大きな風車が建っていた。周辺は住宅街で、風車までの距離が近い。海側は平地で、山側にしばらく進むと、道川氏の団地があるところは急な坂になっている。海の方から、つまり西から風が吹くと、団地までさえぎるものがない。
あべ氏はこの間、低周波音の被害者から聞きとりをおこなってきた。自分は風車病ではないかと疑う人から、相談が持ちかけられることも増えたという。海岸の風車から1・5㌔のところに住む70代の女性から相談をもちかけられたときのことを、こう語った。
「この女性は、耳鳴りがしたり、身体がこわばったり、痙攣(けいれん)したりと、いろんな症状を訴え、ずっと具合が悪いといっていた。また、夜中に洗濯機が回るような音がするといっていた。しかし医者に行ってもなにが原因かわからず、精神病と診断され、精神安定剤や睡眠導入剤などの薬を処方されて、こりゃだめだということで相談に来た。聞いてみると、他の家族にはそんな症状は出ていない。その女性があんまり症状を訴えるものだから、息子夫婦や孫たちと仲が悪くなって、結局誰も面倒をみないという話になり、その女性は生活保護を申請して風車から3㌔離れたアパートに引っ越した。家族とは離ればなれになったわけだ。しかし、引っ越したら体調がよくなった」
「市役所に行っても病院に行っても、“高齢による健康の不具合”といった木で鼻をくくったような対応で、それで仕方ないと思ってしまい、みんな我慢する。とくに年寄りは…。一般市民はものがいえなくなっている。奥さんに話を聞いていると、ご主人が“お前はそこまでしゃべらなくてもいいべな”というし、奥さんが怒られる。簡単ではない」
「由利本荘には国立病院機構あきた病院がある。昔は国立療養所といっていた。らい病から始まった病院で、今は筋ジストロフィーやALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病患者の病院だ。そこが洋上風力が建てば真正面になる。1基あたり出力1万2000㌔㍗、高さ250㍍、支柱の直径8㍍の巨大風車が2㌔沖に65基建つが、その低周波振動があきた病院に伝わる可能性がある。山側にはすでに多くの風車が稼働しているし、陸上と洋上の累積的影響が大きな問題になりそうな気がする」
「最近、だめーじサポートの会の会員が近所の人から、“この頃、風車の音がうるさくて。なんとかならないか”と相談を受けるようになったという。去年まではそんなことはなかったのに、と。風車の苦情を受け付ける窓口があれば相談しやすいのかもしれない。被害者の会が立ち上がったことは大きいと思う」
別れ際に、だめーじサポートの会代表の畑山氏はこうのべた。
「私たちが目指しているのは、風車で苦しんでいる市民の相談窓口になることだ。苦しんでいても原因がなにかわからない人がいるので、“その体調不良はもしかして風力発電の低周波音かも知れないよ”と知らせながら、いつでも相談にのる。声をあげられない被害者をつなぎ、これ以上新たな被害者が出ないようにするのが私たちの目的だ」