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洋上風力で町はどうなったか 外資と大企業のみ潤う仕組み 地元に残される健康被害 実験台にされる秋田県を訪ねて
2024年10月8日
(10月2日付掲載)
今、秋田県のホテルは風力発電事業者や全国から風力の視察に来る人で賑わっているという。秋田県では陸上に風力280基以上が、また港湾内に洋上風力33基が稼働しており、加えて4海域が国の促進区域に指定されて、これから秋田県沿岸に150基以上の洋上風力が建とうとしている。さらに、反対していた漁協の運営委員長が亡くなったことで、秋田市南部沖が5つ目の対象海域として新たに浮上した。全国に前例のない計画が進んでいるわけだが、これだけ風車を建てて、果たして地元経済は活性化し、住民の生活は向上しているのか。各地で「秋田県は風力によって、固定資産税収入だけでなく、新たな産業が生まれ雇用が生まれている」と宣伝されているが、果たしてそんな調子のいいことになっているのか。秋田県で実際に何が起こっているのか取材した。
秋田県山岳連盟に所属する80代の男性は、「秋田のナンバーワンは、少子高齢化だ。出生率や婚姻率、起業率が全国最下位で、人口減少率、そして自殺率は全国1位。ただ、1人当りの畳の数は全国1位だが、これは秋田県人のええふりこぎ(見栄っ張り)をあらわしている」とのべた。
秋田県は今年7月に人口が90万人を切った。100万人を切ったのが2017年なので、7年余りで10万人減ったことになる。「毎月1000人以上が減っている」といわれるほど人口減少は深刻だ。由利本荘市とにかほ市にTDKの工場があるものの、コメ以外にこれといった産業がなく、若者は都会に出て行く。由利本荘市は「林業にもっとも適した街」といわれているし、能代市は「木都」と呼ばれ、能代港は秋田杉をはじめとする木材の積み出し港だったが、輸入木材が増えるなかで林業も衰退してきた。
そのなかで、少子高齢化の解決策という名目で2000年前後から急浮上してきたのが風力発電だ。政府・経産省の側から秋田県を巻き込んで強力に進めてきた経過が見てとれる。2008年から現在まで、秋田県の歴代副知事は元経産省の官僚で、資源エネルギー関連の仕事をしていた者がほとんどだ。
東日本大震災と福島原発事故が起こった直後の2011年5月、秋田県は再エネの導入による産業振興と雇用創出を掲げた「新エネルギー産業戦略」を決定した。同戦略策定会議の委員は、三菱マテリアルや東北電力をはじめ産官学から参加していた。2012年にFIT(再エネの固定価格買取制度)がスタートすると、2014年5月、秋田県は洋上風力発電導入検討委員会を開き、国の参加のもとで洋上風力推進海域を決定した。これがそのまま現在の四つの促進区域になっている。その後の2019年4月、再エネ海域利用法が施行された。
風力発電の旗振り役としてしばしば地元メディアに登場するのが、2008年に「風の王国プロジェクト」を立ち上げた山本久博氏(元秋田県知事候補者)と、風力発電事業を手掛けるウェンティ・ジャパン(秋田市)を2012年に設立した佐藤裕之氏だ。
秋田市から男鹿半島にかけての海岸線一帯には、江戸時代に整備された防風林が広がっており、ほとんどが県有地だ。秋田県は風の強いこの土地を風力発電の適地とし、事業者の公募を始めた。選ばれたのが「風車1000基の設置」を掲げた「風の王国」であり、ウェンティ・ジャパンだった。山本氏は20歳で渡米し、世界のソーラーカーレースに参加して名を売った人物で、経産省との関係が強いといわれる。佐藤氏は秋田県の第2期新エネルギー産業戦略検討会議の委員だ。
秋田の住民は、立憲民主党や社民党、共産党ら「反原発」をやってきた団体が風力は熱心に推進する側に立っていると指摘する。数年前、反原発弁護士・河合弘之が監督をし、飯田哲也が監修する映画『日本と再生』が秋田県内で上映された。行って見ると「太陽光や風力、バイオマスといった自然エネルギーで地域も経済も再生できる」という内容で、その場でウェンティ・ジャパンの佐藤氏が講演したので驚いたそうだ。