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声をあげる秋田の低周波被害者 風力発電に囲まれた住宅地で起きていること 秋田県由利本荘市を訪ねて

 

2024年10月1日

 

(9月25日付掲載)

 

市)

「風力発電先進地」と宣伝される秋田県では、現在、陸上で280基以上の風力発電が稼働しており、最近では秋田港・能代港の港湾内で合計33基の洋上風力発電が商業運転を始めた。加えて秋田県沖の一般海域では、国の洋上風力促進区域に全国最多の4海域が選ばれ、今後200基近くの洋上風車が建設されることが取り沙汰されている。さらに由利本荘・にかほ市沖は国の浮体式洋上風力の実証実験場になろうとしている。こうして住民たちが巨大風車にとり囲まれた生活をよぎなくされるなか、風力発電の低周波音による健康被害を訴える人が増え、由利本荘市で2022年、被害者の会である「風力だめーじサポートの会」が結成された。国は風力発電と健康被害の因果関係を認めず、事業者はもうけのために風力発電建設をやめようとしないが、その下で住民たちはどのような状況に置かれ、なにを訴えているのか。本紙は現地を訪れて取材した。

 

秋田県の南部にある由利本荘市やにかほ市の海岸沿いを車で走り、さらに北へ秋田市、潟上市、能代市と上っていくと、巨大風車と人々の生活圏があまりにも近いことに驚く。

山を見れば、尾根沿いに風車が林立している。にかほ高原のような観光地も、舗装した道路が風車の真下を通って展望台につながっており、おかげでキャンプ場は使えなくなった。

海には海岸沿いに風車が10基、20基と建っている。秋田県の海側は大昔は砂丘であり、強風が吹くため、江戸時代に防砂林をつくるまではそこに人が住むことはできなかったそうだ。その風を利用しての風車だという。

道路を走っていても、街中で突然、巨大風車が出現することも少なくない。由利本荘のコメ作りの中心地・子吉平野に水を供給する溜め池の周辺にも、あちこちに風車が建っていた。

これだけ風車に囲まれているのだから、身体への影響が出ないはずがない。2022年9月、風力発電の低周波音による健康被害を訴える人たちが集まって「風力だめーじサポートの会」を結成し、由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会とともに記者会見をおこなった。

記者会見でだめーじサポートの会は、「事業者や市役所への私たちの訴えは、なにもなかったように無視され続けている。しかし、泣き寝入りなどしたくない」「事業者に風車の稼働を止めてもらうか、撤去してもらうしかない。みんなが安心して生活できる環境をとり戻したい」と訴えた。

今回、だめーじサポートの会の5人のメンバーに集まってもらい、健康被害の実情や思いを聞いた。

 

■低周波が引き起こす動悸や胸部痛がいまだに続く

 

(71歳)

 

私は、由利本荘市内の日本海に近い団地に住んでいる【地図参照】。2012年に子吉川河口の本荘マリーナに本荘風力発電所(1990㌔㍗、1基)ができた。私の家から1・9㌔のところだ。そして2017年、その南側に電源開発の由利本荘海岸風力発電所(2300㌔㍗、7基)ができた。これは私の家から2・4㌔だ。

加えて2019年の秋頃に、今度は自宅から北東方向約2㌔の三望苑で、由利本荘第三風力発電所(1990㌔㍗、1基)と由利本荘第二風力発電所(1990㌔㍗、1基)が稼働し始めた。

初めはあまり気にしていなかったが、年が開けて2020年2月17日、夜中2時頃に目が覚めたら、突然グウングウンという音が聞こえてきて、急にドキドキした感じになり、血液が頭にドクドク流れ、血管が破れるんじゃないかというような感じがしばらく続いた。少しして収まったが、朝まで眠れなかった。次の日も夜中に目が覚めたら同じような音が聞こえ、ドキドキ感があった。それから気になって夜寝られないし、寝ても1時間か1時間半で目が覚めるようになった。

その年の6月、南西の風が強かったときだが、そのときも音が聞こえて2日間ほとんど寝られなかった。そこで由利本荘市長に手紙を書き、「事業者に風車を夜間だけでも止めるようにいってくれないか」と訴えた。その後、市職員と事業者が来たが、低周波音による健康被害についてはわかってもらえなかった。

同年9月初め、耳鼻咽喉科の病院で聴力検査をしてもらった。私は若い頃、突発性難聴になって左耳はまったく聞こえない。聞こえる右耳は、高い周波数は歳相応に聴力が落ちているが、低い周波数はそれほど落ちていない、との検査結果だった。睡眠導入剤と精神安定剤を処方された。

しかし、その後も音を強く感じる日は眠れない。9月末、2回目の受診で病院に行ったときのことだ。待合室にいると急にドキドキし始め、調べてもらったら血圧がかなり高くなっており、内科に行って心電図を調べてもらうようにいわれた。内科では上室性期外収縮(不整脈)と診断された。血液検査をしてみると、ドーパミンやアドレナリンの数値が異常に高くなっていて、ストレスによる緊張が原因といわれた。

その後も睡眠不足は続いており、寝ているときグウングウンと低周波音が強く感じられるとドキドキすることが多くなった。胸のあたりがぐうっと押された感じがして少し痛んだり、頭がズーンズーンと痛むこともある。また、頻繁に肩がこるようになった。

風力だめーじサポートの会をつくった2022年の9月頃、夜中に目が覚めて血圧が異常に高くなっていたので、内科の医者に行った。睡眠導入剤と血圧を下げる薬を処方され、その1カ月後にはもっと強い薬をもらったが、やはり風車の音が気になって目が覚めることが多くあった。睡眠導入剤もだんだん効かなくなってきて、逆にそのせいで具合が悪くなるようにも感じ、それ以来一切のんでいない。

市役所生活環境課が「遮音効果の高い耳栓を試してほしい」というので、それを借りてグウングウンという音が聞こえる夜中に試してみた。耳栓をすると低周波音の振動だけが聞こえて、しないときより気になって眠れなくなるようだった。今は、ラジオを聞いているとマスキング効果で寝られるよとアドバイスを受け、そうしている。

そういう症状は、自宅を離れると出なくなる。だからあちこち安い温泉を捜して2、3日泊まりに行ったり、寝袋を持って車で遠くに行き、車中泊をしている。音が気になるのは冬が多く、車中泊は夕方から出掛けるのだが、吹雪の中を出て行くのがいやで、それでも遠くに行くとちゃんと寝られて帰ってこれる。

具合は年々悪くなっている。前は寝ているときが多かったが、ここ1、2年は日中でも、胸が痛いし苦しい。そのとき家から南西側を見ると、風が強くて海岸の風車がぐるぐる回っていた。最近では腸の具合が悪いし、脈が飛ぶことがある。不整脈なのだが、寝て起きてドキドキしたなと思ったら、突然脈がピタッと止まった。びっくりしたが、10秒ぐらいで脈が出始めた。

症状と時間や風速を日記に

海岸の風車も三望苑の風車も、どちらも家から約2㌔のところにあり、両方にはさまれた真ん中に私の家がある。だから両側から低周波音が来ているのではないかと思う。南西の風が相当強いときには風車が回る騒音が聞こえることもあるが、多くがグウングウンという低周波音だ。ブレード(羽根)と支柱が交叉するときに生まれる衝撃音で、支柱の振動が空気振動で伝わり、頭にグウングウンと響くようだ。

さっき病院の待合室で気分が悪くなったといったが、後で調べたらその病院も海岸の風車と三望苑の風車にはさまれており、どちらも病院から2・7㌔とまったく同じ距離だった。

 

ところが、夏になるとそういう症状は出ない。私は4年あまり前から、風車の低周波音によってあらわれた症状を日記に詳しくつけている【表1】。そこから「体調異常を感じた日数と比率」の表をつくり、それに私の健康被害を引き起こしていると思われる三事業者の風車の「稼働状況(3社の平均値)」を加えて表にした【表2】。すると、風が強く風車がフル回転している冬場に体調異常を引き起こす日が集中しており、ほとんど風車が回っていないかゆっくり回っている夏場は体調異常がほとんどないことがはっきりした。また、冬場でも風が強く風車がフル回転している日は体調異常になるが、風が弱く風車が回っていない日はそうでもない。

今年1月、このデータをもって市役所生活環境課および三事業者との会合を持ち、「私の体調異常は明らかに風車の低周波音が引き起こしているのだから、夜間だけでも風車を停止してもらいたい」と再度申し入れた。しかしその後、一切音沙汰がない。

低周波音の測定器を借りて枕元に置き、体調異常をきたしたときの音の大きさを測ってみた。スマホのアプリはA特性(人間の耳にどう聞こえるかに配慮されたもので、耳に聞こえない低周波音はカットされる)に設定されているが、この測定器はZ特性で、補正をかけない自然の音が測定できる。