促進区域は補償金なし 実際は漁業への影響大
では、漁業者は洋上風力についてどう思っているのか。
秋田県でも近年、漁業者の高齢化と後継者不足によって、漁業者の減少が止まらない。10年前、秋田県漁協の組合員は1391人(うち正組合員1068人)いたが、今年4月段階で1095人(うち正組合員772人)に減り、1000人を切るのは時間の問題といわれている。
由利本荘市とにかほ市の漁業者は、県一合併した秋田県漁協の南部支所(旧南部漁協)に所属しており、北から道川、松ケ崎、本荘、西目、金浦(このうら)、平沢、象潟(きさかた)、小砂川の8つの所がある。道川から本荘までが洋上風力の対象海域だが、この地域の漁協組合員は30~40人といわれ、船はあっても操業していない人が多いという。底引きなどの大きな船を持っているのが金浦、象潟、平沢で、それを含むにかほ市側が南部支所の組合員の7~8割を占めるが、ここは洋上風力の対象ではない。
南部支所のある漁港で話を聞いた。ここは夏場はミズダコ漁で、タコ箱で獲る。岩牡蠣(かき)も有名で、6~8月が旬だ。鳥海山の雪解け水が冷たい伏流水となり、象潟沖に湧き水で出てきてプランクトンを育てている。広島の真牡蠣と比べて、大きさも厚みもあるそうだ。
11月から12月は県魚に指定されているハタハタ漁である。また、秋田は5カ所にサケの孵化場があって、毎年春に稚魚の放流をやっており、数年後に故郷の川に戻ってきて遡(そ)上する。最近では海水温の変化でハタハタが獲れなくなり、50年前はほとんど見たことがなかったサワラやトラフグがよく獲れるようになったという。
漁業者たちは、洋上風力事業者が来てなにをしたかも語った。「説明会に行って名前を書けば、タクシー代として5000円がもらえた」「海で風況調査やボーリング調査をやるとき、漁協組合員に警戒船を依頼するが、1日1隻出ると8万~10万円もらえた」「風力の視察旅行といって、事業者持ちで長崎県の五島やオランダ、イギリスに行った」「原発と同じで、高齢化していつやめてもいい漁業者につけ込んでくる」
話しているなかで、促進区域という制度がいかに漁業者に不利なものかがわかってきた。洋上風力発電の促進区域を選定する再エネ海域利用法(2019年4月施行)の考え方は、「洋上風力は漁業に影響を及ぼさない」ということが前提だ。同法は、「(促進区域は)漁業に支障を及ぼさない海域を指定する」となっており、したがって促進区域に指定されても漁業補償金は発生しない。そして秋田県漁協は法定協議会に参加しているので、これを認めたことになる。
通常、一般海域に建築物を建てるとき、その海域で操業する漁業者の漁業権を制限、または消滅させることになるため、事業者は漁業者に漁業補償金を支払わなければならない。そして中国電力が原発建設を狙った山口県上関町でも、前田建設工業が洋上風力建設を狙った下関市安岡でも、漁業者が海を守るために補償金の受けとりを拒否し、それによって工事の着工はできなかった。ところがこの新たな仕組みでは、漁業者は意志表示をする手段がない。
一方、事業者は漁業補償金は支払わないが、20年間の売電収入額の0・5%を「漁業や地域と共生するための出捐(えん)金」として拠出し、それを自治体と漁協で半々に分けることが決まっている。0・5%といっても億単位の金になるかもしれないが、全体の中では微々たるもので、利益のほとんどが外資や東京の大企業に入ることになる。原資は、国民が電気料金に含めて徴集されている再エネ賦課金だ。
「漁業に影響しない」というが、秋田県沖に建設される洋上風力は、沿岸から1~4㌔の至近距離に、着床式モノパイル工法で直径8㍍の鋼管を砂地に打ち込み、鋼管の根元には海流による洗掘防止としてフィルターユニット(石材を詰めた蛇籠)を敷き詰める。この石材が膨大で、1万5000㌔㍗の風車1基で約1500㌧と事業者が説明している。その超巨大風車が沿岸に150基以上も建つわけだから、膨大な石材が水深10~30㍍の海底に敷き詰められることになり、それが漁業に影響しないわけがない。
漁業者は、「ハタハタはサンドフィッシュといって、砂地を寝床にする魚だ。そして沿岸の藻場で産卵し、そこで稚魚が育つ。水深10㍍というのは、魚にとって一番大事なところだ」「ダイナマイトを海中で爆発させて振動を起こし魚を獲る漁法は、日本では禁止されている。ところが能代港で洋上風車を建てるとき、直径6㍍のモノパイルを海底に打ち込む打設音がそれに近い強烈な音を出した」「秋田沿岸には海底油田があり、ボーリングすると油が出てくる。そこにモノパイル方式でボコボコ穴を開ければ、影響が出ないわけがない」といっていた。
三菱商事グループは、「建設前から6年間、漁業への影響を調査する」といっている。だが、補償についてはなにも決まっていない。
70代の漁業者は、「半世紀前にはここの漁港だけで220人の漁協組合員がいて、海士(アマ)も100人はいた。それが今は全部で70人程度に減り、多くが70代以上だ。国はふるさと創生というが、それなら第一次産業を活発にさせろと思う。第1次産業を粗末にしてきたから、ふるさとはダメになってきた。そうして少子高齢化が進み、漁師の後継ぎもいなくなった弱ったところに、今度は風車を持ってこようとしている」と語った。「漁業との共生」どころか、真逆である。