在日アメリカ宇宙軍が発足 宇宙空間を担う新部隊 横田基地
2024年12月4日
アメリカ軍はミサイルの発射を繰り返す北朝鮮などに対応するため、横田基地に宇宙空間を担う新たな部隊、在日アメリカ宇宙軍を設置し、4日発足式が行われました。
横田基地で行われた発足式には、アメリカ・インド太平洋宇宙軍のトップ、マスタリール司令官や航空自衛隊幹部などおよそ200人が出席しました。
マスタリール司令官 “脅威に対し日本と連携して対応”
この中で演説したマスタリール司令官は「北朝鮮やロシアといった継続的な脅威に加え、中国は違法で威圧的、そして攻撃的な戦術を用いてインド太平洋地域の安定を脅かしている」と述べ、強い警戒感を示しました。 そのうえで「日米同盟はかつてないほど強固で、いまや宇宙においても、平和と安定を守る準備ができている」と述べ、この地域の脅威に対し日本と連携して対応していくと強調しました。
アメリカ軍によりますと、4日発足した在日アメリカ宇宙軍は数十人規模で構成されます。 航空自衛隊で宇宙空間を専門的に扱う部隊と連携しながらミサイル発射を繰り返す北朝鮮や宇宙空間での活動を活発化させる中国などに対応するため、宇宙空間の監視やミサイル発射情報の共有化を進めていくとしています。
在日米宇宙軍 ラートン司令官 “日米同盟にとって歴史的な瞬間”
演説した在日アメリカ宇宙軍のトップ、ラートン司令官は日米の部隊連携の強化のために進められている在日アメリカ軍の再編に触れ、「在日アメリカ軍の再編が目前に迫っているいま、宇宙軍の発足が同時に進むことは日米同盟にとって歴史的な瞬間だ」と述べ、意義を強調しました。
アメリカ宇宙軍とは
アメリカ宇宙軍は、2019年、宇宙空間の軍事利用を進める中国やロシアに対抗するためだとして、陸軍や海軍などと同格の6番目の軍種として創設されました。 アメリカで新たな軍が創設されたのは1947年の空軍以来、72年ぶりです。 【衛星に対する攻撃警戒】 主な任務は軍事衛星の打ち上げや運用、宇宙空間での監視活動の強化です。 アメリカ軍は、中国が衛星を攻撃するいわゆる「キラー衛星」を打ち上げたり、ロシアが衛星と地上の通信を妨害する兵器の開発を進めたりしているとみていて、宇宙空間での中国やロシアによる脅威が増大しているとしています。 アメリカ軍は地球規模の部隊間の通信や核戦力の指揮・統制、精密攻撃など幅広い活動を衛星網に依存しており、仮に、衛星が攻撃を受ければ、安全保障上、深刻な影響を及ぼす可能性が指摘されています。 このため、宇宙軍は他国の衛星などを追跡・監視し、自国の衛星を敵の攻撃から防衛する活動にあたっています。 【ミサイルへの早期警戒】 さらに、衛星を用いた地上の監視活動も行っています。 そのひとつが、早期警戒衛星を利用したミサイル発射の探知です。弾道ミサイルなどに関する発射地点や予想される落下地点、その時刻などのデータを発射直後に解析しています。 将来的にはいまの迎撃システムでは撃ち落とすことが難しいとされる極超音速ミサイルに対応するためアメリカ宇宙軍は、低軌道を周回する数百の小型衛星を一体的に運用する「衛星コンステレーション」でミサイルを探知・追尾することを目指しています。 また、宇宙軍は2022年、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返す中韓国に部隊を発足させました。 今回、新たに日本に宇宙軍の部隊を創設することで、日米韓の3か国で北朝鮮、将来的には中国のミサイル情報の即時共有を進め、抑止力を高める狙いがあるとみられます。 【宇宙分野で日米協力】 日本との宇宙領域での協力をめぐっては日米両政府は去年の外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」の共同声明で連携強化を盛り込んでいます。日米両政府は宇宙空間での攻撃が一定の場合にはアメリカの防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用の対象になりうることを確認しています。 また、日本版GPS衛星とも呼ばれる「準天頂衛星」にアメリカの「宇宙状況監視センサー」を搭載することでも合意していて、今年度中の打ち上げを目指しています。
アメリカ軍 中国やロシアの宇宙空間軍事利用を警戒
アメリカ軍は中国やロシアが宇宙空間を軍事利用し、兵器開発を進めているとして強く警戒しています。 【中国】 アメリカ国防総省は、中国が軌道上での衛星の検査や修理を目的に開発しているロボットアームの技術を軍事転用しようとしていると指摘しています。 具体的には、いわゆる「キラー衛星」のひとつで、衛星のロボットアームを使って敵対する国の衛星の軌道を変える攻撃兵器の開発を進めているとしています。 さらに、低軌道の衛星を標的とする地上配備型の対衛星ミサイルの運用や、衛星と地上の通信を妨害する「衛星ジャマー」の開発も行っているとしています。 【ロシア】 アメリカ国防情報局は、ロシアも地上配備型の対衛星ミサイルや「衛星ジャマー」、それに衛星のセンサーを妨害するレーザー兵器の開発を行っていると指摘しています。
マスタリール司令官「中国軍が衛星を利用している」
アメリカ・インド太平洋宇宙軍のトップ、マスタリール司令官は、NHKなど一部のメディアに対し、中国軍が南西諸島から台湾、フィリピンに至るいわゆる「第1列島線」へのアメリカ軍の接近などを阻止する戦略に衛星を利用していると明らかにしました。 具体的には離れた地点からアメリカや同盟国の艦艇や航空機を攻撃するため、多数の衛星を使って目標を追跡し攻撃するシステムの構築を進めているとしています。 マスタリール司令官はこうしたシステムに対抗することが重要だとしたうえで、日米で連携して抑止力を高める必要性を訴えました。
日米関係に詳しい専門家 “韓国含めた協力が重要”
アメリカ軍が日本に宇宙軍を発足させたことについて、日米関係に詳しいランド研究所国家安全保障研究部のジェフリー・ホーナン日本部長は「日米の間では、陸・海・空の領域で歴史的にも長い協力関係があったが、宇宙領域ではこれまでなく、同盟関係において欠けている部分だった。宇宙領域の能力向上のために今後は両国がより緊密に協力していくことができるだろう」と指摘しました。
具体的には中国と北朝鮮の2つの国の軍事動向の監視や、対応にあたることが目的の1つだと見ています。
とりわけ中国については「アメリカにとって宇宙領域は、中国との戦略的競争の重要な分野だ。中国は多大な資源を宇宙開発に投入していて、この地域では、対宇宙作戦で先頭に立っている。アメリカにとって脅威だ」と述べました。
また、北朝鮮については、より正確なミサイル発射技術の習得を図っているとした上で「北朝鮮とロシアの協力関係が深まっていることを踏まえると将来的にはロシアから高性能な技術を供与され、北朝鮮がさらに宇宙分野でも多様な能力を開発していくことも予想される」と指摘しました。
その上で、アメリカが韓国にも同様の部隊を発足させていることを踏まえ、「私たちは単独で敵対国を抑止することはできない。アメリカとしては、北朝鮮や中国による脅威をともに認識している日本や韓国と協力することが重要だ」と述べ、日米だけではなく韓国も含めて、衛星の追跡やミサイルの探知などの協力を進めることが重要だと強調しました。
防衛省・自衛隊も対応強化
宇宙をめぐっては防衛省・自衛隊も対応を強化しています。 航空自衛隊には2020年、宇宙空間を専門的に扱う初めての部隊が発足しました。 人工衛星がほかの衛星や物体と衝突して機能不全に陥ったり、宇宙ゴミが発生したりするのを防ぐため、レーダーなどを使って24時間態勢で宇宙空間の監視を行っているほか他国の衛星の運用状況などを把握する任務を行っています。 2025年度には部隊の名称を「宇宙作戦団」とし、人員をおよそ670人に増やします。 防衛省は今後、人工衛星に対する電波妨害などへの対応を強化するとともに、他国の衛星の情報通信を妨げる能力を構築するなどとしています。 また、防衛省は来年度予算案の概算要求で、複数の人工衛星を連携させて情報を収集するシステム「衛星コンステレーション」を構築する費用を初めて盛り込み、3232億円を計上しました。 このシステムでは、複数の衛星を使って同一地点を高頻度で撮影することで、弾道ミサイルの発射の兆候を把握したり、他国の艦船などを探知・追尾したりすることを目指すということです。 2025年度以降、段階的に複数の衛星が、打ち上げられ、2027年度までに本格的な運用を目指しているということです。 打ち上げる衛星の数について防衛省は「情報収集能力が明らかになるため答えられない」としています。
アメリカ軍との連携進む
防衛省・自衛隊は、宇宙空間にある人工衛星や物体について、位置や軌道などに関する情報をアメリカ軍と互いに共有するなど連携を進めています。 2020年からは宇宙空間に関して各国との連絡や情報共有を行うアメリカ軍の調整所に自衛官1人を派遣しています。調整所はアメリカ・カリフォルニア州にあり、イギリスやフランス、ドイツの各軍などからも要員が派遣されていて、各国との連携を深めています。
2016年からはアメリカ軍が行う宇宙空間の監視などに関する机上演習にも参加していて、宇宙空間にある物体の探知や追跡を協力して行う際の要領などを学んでいます。
2023年1月に行われた日米の外務・防衛の閣僚協議では宇宙空間での攻撃は同盟の安全に対する明確な挑戦だとして、一定の場合にはアメリカによる防衛義務を定めた日米安全保障条約の第5条の適用の対象になりうることを確認しています。
今回、在日アメリカ宇宙軍が新編されたことについて、防衛省は「日本国内にアメリカ側のカウンターパートができることで、時差などもなく、相談や議論がしやすくなりより円滑なコミュニケーションが期待できる。日米同盟の抑止力・対処力の強化に資する」としています。防衛省によりますと、現時点で在日アメリカ宇宙軍の新編によって、新たなレーダーや施設などの設置は予定されていないということです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241204/k10014658301000.html