経費は上昇、客は来ず 飲食店の実情
顕著なのが、コロナ禍の影響が真っ先に直撃し、テイクアウトなど営業方法の工夫や国の支援策で乗り切ってきた飲食店の倒産だ。2024年1~10月の飲食業の倒産(負債1000万円以上)は820件と前年同期と比べて12・7%増、2020年1~10月の730件を抜いて過去最多を更新した。このままのペースで推移すれば、年間で初めて1000件をこえる可能性がある。コロナ禍で激減した需要がその後も戻らず、物価高が追い打ちをかけている。
ラーメン屋や焼き肉屋などの「専門料理店」が202件で前年同期比17・4%増。「酒場、ビヤホール」が156件で同13・8%増と、どちらも1~10月の累計で最多を記録した。焼き肉屋はコロナ禍で需要が高まり、出店があいついだ業種だ。店舗数の増加で競争が激化すると同時に、円安などでアメリカ産やオーストラリア産など輸入牛肉も高騰し、安価だったはずの豚肉も価格が高騰、光熱費や人件費も上昇するなかで、夏ごろから倒産の増加が表面化していた。
また、飲食業の倒産で増加率が大きいのは「バー、キャバレー、ナイトクラブ」(前年同期比84・6%増)や「そば・うどん店」(同50・0%増)などだ。コロナ禍の収束で直接的な関連倒産は減少傾向にある一方で、物価高倒産が増加(49件、前年同期比4・2%増)し、最多を更新している。
下関市内でも「10月が厳しく、お客さんがまったく来なくて大赤字だった。これほど少ないのはコロナ禍でもなかったことで、初めて。年の暮れまで踏ん張るが、どうなるだろうか」(居酒屋)など、飲食店からは、コロナ禍以上に夜の客が減少している実感が語られている。人通りがないだけでなく、予約も入らないという飲食店は少なくない。
その一方で経費は上昇している。「肉、魚、野菜、油など原材料がすべて値上がりして、なかには倍になったものもあるが、それを価格に転嫁できない。大きいところは別ルートで安く原材料を仕入れて価格を抑えることができるのだろうが、私たちがメニューの価格を上げればお客が逃げてしまう」(飲食店)、「電気・ガスも高騰している。11月支払い分(10月使用分)までは少し補助があったが、12月支払い分からなくなる。来年1月使用分から補助を再開するという話も出ているが、まだ決まっていないし、その間を乗り切れるだろうか…」(同)などと語られている。原材料費の高騰で、同じ売上であったとしても利幅は薄い。人手不足に対応して時給を上げようにも上げることができない中小零細企業は多い。
全国的にはインバウンドの再開などで飲食店の売上は回復傾向にあるとされている。政府によればコメ不足も「外国人がたくさん食べた」ことが一因であり、首都圏や有名どころの観光地ではオーバーツーリズムの問題が再び浮上している。にもかかわらず飲食店の倒産が増大しているのは、内需の衰退、つまり国内の圧倒的多数の人が財布の紐を締めているからにほかならない。スーパー関係者によると、売り出しをしてもそこそこ売れる程度の一方で、総菜が半額になる時間には人が殺到するし、以前はなかった見切り品コーナーに人だかりができる光景が日常になりつつあるという。