役に立たなぬ「なりわい支援」 収入補償は必須
ボランティアに頼って浸水した部屋の泥かきをしていた宿泊施設の男性は、「周囲では解体が進んではいるが、一区画ずつの作業ではないため、歯抜け状態になっている。隣の家屋も家主の立ち会いはとっくに終わっているが、解体に着手するのは来年以降だ。業者が少なく、私たちも毎週市外から来てくれるボランティアに助けられている」という。
事業主でもある男性が今後、最も危惧するのが若年層の地元離れによる人口の流出だ。
「解体によって更地が増えていく一方で、人口がどんどん減っている。コミュニティを守るためには働き口が絶対的に必要だ。コロナのときには休業補償として1日当り最大7万円程度の支援金が出たが、そこまでしなくても前年同月比で7~8割だけでも収入が保証されたら、輪島市内の事業所も店も廃業したり、従業員を解雇せずに済んだ。収入がないのに雇用保険を払い続ける体力はないし、雇用調整助成金は雇用保険に加入していないパートやアルバイトには適用されない。小規模事業者ほど従業員を解雇しなければ持ちこたえられない。北陸応援割(ホテル宿泊料の補助)で都市部を潤わせるのもいいが、実際に被害を受けた奥能登には何の恩恵もない。能登支援が始まる前にみんな潰れてしまい、誰もいなくなってしまう」と強調した。
「能登の復旧は外から作業員を呼ばなければ成り立たないことは誰が考えてもわかることだ。だが、水道の復旧のために来てくれた東京水道局も金沢から5時間かけて輪島に到着し、3時間作業してまた帰って行くという状況だった。それなら最初から、行政が町中の空き地や駐車場を借り切ってプレハブを建てて宿泊拠点を確保し、飲食店を雇用して炊き出しをすれば、復旧も前に進めることができるし、雇用をつなぎ止めることもできたはずだ。実際には震災後、輪島市内の宿泊施設に対して市から“どれだけ人数を収容できるか”という打診も、作業者やボランティアのために借り上げるという提案も一切なかった。それでまだ“泊まるところがないから日帰りしかない”といっている。実際には能登を切り捨てる方向で動いているとしか思えない」。
国の能登支援の柱である「なりわい再建支援補助金」(地震で破損した建物や設備の原状回復費用の4分の3を国と県が補助)も、現地再建以外認められず、補助金を受けてから22年以内に廃業した場合には返還しなければならない縛りがあるため、多くの事業者が申請をためらい、輪島市内で給付を受けているのはわずか5件のみ。そのうち2件は水害で事業が停止しているという。
「こんなことをくり返していけば、災害が起きるたびに地方から町が消え、産業が消え、人が消えていく。人や産業を守らず、潰れていくにまかせた結果、行政が最後に頼るのが、核廃棄物の最終処分場や原発などの迷惑施設の受け入れだ。そんなことになるくらいならなぜ今、守らないのか。実際に今、その危機に直面している能登の人間として、全国のみなさんにも災害時の教訓として真剣に考えてほしい。すでに輪島では災害に便乗して、6つの小学校が1つに統廃合され、総合病院も広域統合の計画が進んでいる。生業や生活区域を守るのではなく、人口も居住区も減ることを想定した復興計画が進行している。災害のどさくさにまぎれて進んでいるのもやはり地方切り捨てなのだ。そのことに能登の人間は怒っている。輪島を守るセーフティネットが必要だ。早く手を打ってほしい」と怒りをにじませて語った。