石破茂首相の所信表明演説の全文
2024年11月29日
1 政権運営の基本方針
【民主主義のあるべき姿】
「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合わせるべきことについては相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍していくようにしなければならない」
これは、昭和32年2月の石橋湛山内閣施政方針演説の一節です。
この言葉に示されているとおり、民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が、真摯に政策を協議し、よりよい成案を得ることだと考えます。
先般の選挙で示された国民の皆様の声を踏まえ、比較第1党として、自由民主党と公明党の連立を基盤に、他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、真摯に、そして謙虚に、国民の皆様の安心と安全を守るべく、取り組んでまいります。
2 三つの重要政策課題への対応
全ての国民の幸せを実現するため、3つの重要政策課題への対応を進めます。
(1)首脳外交を経た今後の外交・安全保障政策
【基本的考え方】
まず第1は、外交・安全保障上の課題への対応です。国際秩序に大きな挑戦がもたらされています。ロシアによるウクライナ侵略は今も続き、北朝鮮の兵士がウクライナに対する戦闘に参加しています。中東地域で続く報復の応酬はいまだに終わりが見えません。
我が国周辺に目を転じれば、今年後半だけを見ても、中国、ロシアの軍用機が我が国領空を相次いで侵犯したほか、中国空母が我が国領海に近接する海域を航行しました。戦闘機を含む中国空母2隻の艦載機は約1200回に及ぶ発着艦を太平洋で行いました。
ロシアの哨戒機は我が国を周回する飛行を行いました。北朝鮮は、ICBM級を含め、近年かつてない高い頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返しています。
こうした厳しく複雑な国際社会においても、国家のかじ取りを行うにあたっての基本は変わりません。
すなわち、我が国としての、そして同盟に基づく抑止力・対処力を維持・強化しつつ、各国との対話を重ね、我が国にとって望ましい安全保障環境を作り出すことです。これにより、分断と対立を乗り越え、法の支配に基づく国際秩序を断固として堅持してまいります。
【首脳会談の成果】
私は、先般、ペルーでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)、ブラジルでの20カ国・地域(G20)に出席し、自由貿易体制の維持・強化、飢餓・貧困の撲滅といった国際社会の諸課題につき、我が国の理念、施策を発信するとともに、各国首脳との間で個別に意見交換を行いました。
アメリカ合衆国のバイデン大統領とは、今後も、揺るぎない日米同盟を更に発展させていくことで一致しました。
合衆国では、来年1月には第2期トランプ政権が発足します。日米安保体制は、我が国の外交・安全保障政策の基軸です。しかし、同時に、合衆国も、在日米軍施設・区域の存在から、戦略上大きな利益を得ています。
当然のことながら、合衆国には合衆国の国益があり、我が国には我が国の国益があります。だからこそ、率直に意見を交わし、両国の国益を相乗的に高めあうことで、自由で開かれたインド太平洋の実現に資することができると考えます。
トランプ次期大統領とも率直に議論を行い、同盟を更なる高みに引き上げていきたいと考えております。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とも、来年、国交正常化60周年を迎える中、首脳会談も頻繁に行い、日韓関係を大いに飛躍させる年にしよう、ということで一致しました。日米韓3カ国の首脳会談も行いました。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とも、かみ合った議論を行うことができたと感じています。日中間には様々な懸案、意見の相違があります。首脳会談の際、私からは、中国軍の活動の活発化や深圳での児童殺害事件など、我が国の有する懸念について率直に提起をいたしました。
また、日本産水産物の輸入解禁の早期実現、日本産牛肉の輸入再開、精米の輸入拡大も求めました。私が指摘した短期滞在の日本人への査証免除再開については、既に中国側から明日30日に開始するとの発表がありました。
このように、諸課題について、主張すべきことは主張する。しかし、その上で、協力できる分野では協力していく。それが私の考える国益に基づく現実的外交です。
中国の安定的発展が地域全体の利益となるよう、習主席とも確認した、「戦略的互恵関係」の包括的推進、「建設的かつ安定的な関係」の構築という大きな方向性に基づき、今後も首脳間を含むあらゆるレベルで中国との意思疎通を図ってまいります。
日ロ関係は厳しい状況にありますが、我が国としては、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。
【防衛力の抜本的強化】
外交と防衛は車の両輪です。
私は、厳しい安全保障上の現実を直視し、国家安全保障戦略等に基づき、我が国の防衛力の抜本的強化を着実に進めるとともに、同盟国・同志国との連携を更に深めることで、我が国の独立と平和、国民の命と平和な暮らしを守り抜きます。
防衛力の最大の基盤である自衛官の充足が約90パーセントにとどまっていることは、極めて深刻な課題と認識しています。自衛隊の人的基盤の強化に向け、私を議長とする関係閣僚会議を既に3回開催し、議論を重ねています。
隊員の生活・勤務環境の改善等、早急に実現可能な方策は経済対策に盛り込み、併せて、若くして定年退職を迎える自衛官の新たな生涯設計を確立し、退職後も社会で活躍するための施策の方向性についても、年内に結論を得て、可能なものから令和7年度予算に盛り込みます。
沖縄県を含む基地負担の軽減に取り組みます。普天間飛行場の一日も早い返還を実現するため、辺野古移設が唯一の解決策であるとの方針に基づき、着実に工事を進めてまいります。
沖縄振興の経済効果を十分に域内に波及させ、それを実感していただけるよう、沖縄経済の強化に向けて支援を継続します。
加えて、在日米軍施設・区域の自衛隊による共同使用を進めるとともに、駐留に伴う諸課題の解決にも取り組みます。
サイバー攻撃の脅威は差し迫った課題であり、有識者会議の提言も踏まえ、サイバー安全保障分野での対応能力を向上させるための法案を、可能な限り早期に国会に提出するべく、検討をさらに加速します。
【拉致問題】
拉致問題は、単なる誘拐事件であるにとどまらず、その本質は国家主権の侵害です。拉致被害者やそのご家族がご高齢となる中で、時間的制約のある、ひとときもゆるがせにできない人道問題であり、政権の最重要課題です。
国家としての、また、私自身の断固たる決意の下、その解決に取り組んでまいります。先に述べました日米、日韓の首脳会談においても、引き続きの連携を確認いたしました。